「芙蓉忌」
当事者 | 貴樹(進学先の大学で研究を続けていたが、見切りをつけて、高校の3年間だけ過ごした実家に帰ってきた。身近な家族(父・母・弟)は3人とも鬼籍に入っているため、仕事を探しつつ、家の状態を整えなければならない。) |
怪異 | かつて弟が暮らしていた部屋に隙間があり、そこから一人の女が生活している様子が見える。貴樹は暇さえあれば、その女を見に行ってしまう。 |
最初から怪異に魅入られてて、危険性にも気づきつつ(だって、自分で気づいてたもんねぇ、弟はとり殺されたって)、積極的に解決に動こうとしない、むしろ執着してしまっている感じが不気味で大変良かったです。怪異も完全には取り去れられていないみたいだし、貴樹は人生に執着していない様子だしで、他人が貴樹にもっと介入してくれるようなことが起きないともう助からないだろうな。
全編通してみても、この巻ではこの話が一番怖かったです。
「関守」
当事者 | 佐代(主婦/童謡「通りゃんせ」が嫌い) |
怪異 | 佐代が子供の頃の話。近所の神社に忘れ物をしたので取り戻ったところに鬼に出会った、ような気がする。 |
「通りゃんせ」をきっかけ展開しましたが、意外なところに着地した話でした。怖い思いをしたためにトラウマじみたものになってしまっていた思い出ですが、偶然居合わせた尾端さんのおかげで、実際のところがどうだったのかが分かって良かったですね。鬼=猿田彦だったとは。猿田彦は導きの神さまということで、勝手に優しげ・素朴・強いというイメージ(いつも想像していたのは手塚治虫先生の『火の鳥』に出てくる猿田彦です)をもっていました。ギャップに驚きです。
「まつとし聞かば」
当事者 | 俊弘(妻との離婚をきっかけに、実子の航を連れて実家に戻ってきた/飼い猫だった小春の事故死や、入院中である実母の病状を航に伝えられずにいる) |
怪異 | 小春を探す航の元に、夜になると「何か」がやってくる。航は小春だと思っている様子だが、そんなはずはないと俊弘は知っている。しかも、その「何か」は日に日に凶暴性を増していく。 |
今巻で一番泣けた話でした。怪談話では人間が犠牲になるのはまぁ平気なのですが、動物はダメだぁ〜。怪異の招待は、やっぱり小春だったってことですね。起こした現象が恐ろしかったので、違うものが原因だったと思いたかったのですが。自分を探し求める航の声にひっぱられて成仏できないでいるうちに、凶暴な何かに変質してしまったのでしょうか?最終的には航が小春の死を受け入れて、結果、小春は小春として成仏できたようなのでホッとしました。9割辛い内容でしたが、希望のある終わり方で良かったです。
「魂やどりて」
当事者 | 育(DIYが趣味の会社員。古い長屋を買い取って休日ごとにあれこれ手を入れている。) |
怪異 | 育が寝るたびに、夢に女の人が出てきて何か大声で喚いている。怒っていることはわかるが、内容は理解できない。夢を見た翌日は、とても疲れている。 |
育について、早々に嫌なヤツだな〜と思ったため、まったく同情できない話でした。育は、思い込みや被害者意識が激しく、他者を尊重するということができない人。古道具に対しても同様だから、その来歴とか用途とかを、そこに込められている人の思いを軽視して、結果トラブルを招いているし。なるべくしてそうなった、って感じ。育以外の人に思いやりがあり、運が良かったから解決する目処がたったけど、育はそれが分かっているのかな。
津軽こぎんというもののことは初めて知りましたが、文中の話だけでも、相当な手間と年月をかけて生まれるものだと理解しました。いつか実物を見てみたいものです。そして、ますます怪異を起こした側に同情してしまいました。
「水の声」
当事者 | 末武弘也(公務員/小学5年生のときに友人(りゅうちゃん)を水の事故で亡くしており、自分が見捨てたと気に病んでいる) |
怪異 | 弘也が実家にいると、水の臭いがすることがある。そういうときは、子ども霊が視界に入ってくる。小学6年生の夏からその現象は始まっており、年月が経つにつれ、弘也と霊の距離は縮まっている様子。 |
子どもが死ぬ話はつらいよ。りゅうちゃんの方は狼少年的な展開の結果だけど、調子に乗ったの代償が「死」はきついって。で、さらにもう一人の幼馴染であるささやんが殺されていたなんて。自分の存在を知らせたくて弘也の前にあらわれ続けて、ようやくささやんは救われた。りゅうちゃんは最初から幽霊になんてなっていなかった。20年近くも自責の念に苛まれた弘也は、事件の発覚で救われた。9割辛い内容でしたが、希望のある終わり方で良かったです(2回目)。
「まさくに」
当事者 | 樹(小学6年生/祖母の家に越してきて、昔の住人が作ったと思われる屋根裏を発見する) |
怪異 | 屋根裏にあらわれた黒い影。首を吊っているように見えたり、体が欠損している状態で樹に迫ってきたりする。 |
怪異の内容に反してほっこり話なのですが、幽霊の描写が怖すぎます。結果、おばあちゃんの思い出通り、正邦さんが家の守護霊(文中では座敷童といってましたが)的存在なのは変わっていなかったようで良かったですが、血をぼたぼた落としながら迫ってくるのは、トラウマ級だと思います。窮状を伝えるため、正邦さんも切羽詰まってたのかもしれませんが、小学6年生に対して、もっとこう、手心とか…(苦笑)
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